フェラーリに合うタイヤとは何か
フェラーリというクルマは、ただ移動するための道具ではありません。アクセルを踏み込んだ瞬間、エンジンが生み出す圧倒的なパワーと、その挙動に応える俊敏なハンドリングは、まさに走る芸術品です。
そんなフェラーリに装着されるタイヤには、他の車と比べてはるかに繊細な役割が求められます。
タイヤは、路面と車体を唯一つなぐパーツです。どれほどエンジンが優れていても、どれだけブレーキが高性能でも、すべてはタイヤを通じて地面に伝えられます。
つまり、タイヤの選び方ひとつで、フェラーリの性能を引き出すか否かが決まってしまうのです。
純正で装着されるタイヤはモデルによって異なりますが、たとえばフェラーリ488 GTBであればミシュランの「Pilot Sport Cup 2」やピレリの「P-ZERO」などが標準的な選択肢となります。いずれも高剛性かつ高グリップで、スポーツ走行に特化したハイパフォーマンスタイヤです。
ただし、用途や走行環境によっては、必ずしも純正と同じ銘柄が最適とは限りません。街乗り中心であれば、ロードノイズを抑え、乗り心地のよいものを選びたくなるでしょうし、逆にサーキットを走るならグリップ性能を最優先すべきです。
交換コストはフェラーリ価格
フェラーリのタイヤ交換には、それなりの出費を覚悟する必要があります。たとえばフロントとリアでサイズが異なるモデルが多く、また専用設計のランフラットタイヤを装着しているケースもあるため、一般的なスポーツカーよりも割高になる傾向にあります。
具体的な価格でいえば、たとえば「ピレリ P-ZERO」の前後セットを交換すると、工賃込みでおおよそ30万円前後が相場とされます。モデルによっては40万円を超えることもあり、またカーボンセラミックブレーキとの相性なども考慮すると、単純なサイズ選びでは済まされない部分が多々あります。
さらに、ホイール脱着やアライメント調整まで含めると、交換にかかる作業も時間と専門知識が必要になります。フェラーリ専用のセンターロック式ホイールを採用しているモデルでは、対応可能な設備が整っていないと交換そのものが難しい場合もあるのです。
そのため、安易にネットで安く買って持ち込みという方法はおすすめできません。タイヤの性能だけでなく、装着する技術にも信頼をおけるショップ選びが欠かせないという点で、これもまたフェラーリオーナーの醍醐味といえるかもしれません。
選び方には哲学が問われる
タイヤ交換とは、消耗品のメンテナンスに過ぎないと考えがちです。けれど、ことフェラーリにおいては、それは走り方そのものの選択に他なりません。
たとえば、サーキット走行を趣味にしているオーナーであれば、溝の浅いセミスリック系タイヤを選ぶことでタイムアップが狙えます。その代わり雨天時の制動力は大きく低下するため、天気が崩れそうな日には慎重な判断が求められます。
一方で、街乗りやちょっとした遠出が中心の方には、柔らかめのコンパウンドでロードノイズが少ない銘柄を選ぶことで、快適性がぐっと向上します。静粛性や乗り心地は、長距離を走る際の疲労感を大きく左右するため、日常使いの満足度に直結します。
最終的に大事なのは、「何を重視してフェラーリに乗るか」というスタンスです。加速感なのか、コーナリング性能なのか、もしくは快適な移動空間なのか。
その価値観を明確にしてからタイヤを選ぶことで、交換後のドライブが格段に充実したものになるでしょう。